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札幌高等裁判所 昭和41年(ネ)53号 判決

北海道拓殖銀行

理由

一  債務不履行にもとづく損害賠償請求について

控訴人は、被控訴人が昭和二〇年八月二四日以降控訴人の特別当座預金払戻請求を拒否したため、訴外原子ミノから買受けた土地建物の代金を支払うことができず、その結果売買契約を解除されて右土地建物の所有権を取得し得なくなつたから、これによつて被つた損害(右土地建物の昭和三九年三月当時の時価相当額五二万円の内金五〇万円)の賠償を請求する、と主張するので判断する。

金銭の支払を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法律に特別の規定のある場合または当事者間の特約もしくは法定利率を超える約定利率が定められている場合は格別として、それ以外の場合には法定利率によつて計算された額にとどまり、たとえそれ以上の損害が生じたとしても、その実損害額の賠償を請求することはできないものと解するのが相当である。そうすると、控訴人の本請求は、金銭債務である預金返還債務の不履行にもとづいて生じた特別の損害額の賠償を求めるものであるから、上記の特約について何ら主張立証のない以上、主張自体失当であつて、預金債権の存否の判断をするまでもなく排斥を免れない。

二  不法行為にもとづく損害賠償請求について

控訴人は、被控訴人が控訴人の預金払戻請求に対して違法に支払を拒否した事実をもつて預金債権侵害の不法行為を構成すると主張するので判断する。

不法行為の成立要件である「権利侵害」の行為が、契約関係の範囲内に包含され、ただ契約上の義務の不履行という事実についてのみ存する場合には、債務不履行責任のみが成立するにとどまり、不法行為責任は成立しないものと解するを相当とする。いい換えれば、債務の不履行は、それが債権の侵害となるということ以外の意味で、契約関係に包摂されない何らかの権利侵害ないし公序良俗違反として違法性を具備する特段の事情がある場合に、はじめて不法行為責任との競合を来たすものと解すべきである。

そうすると、上記控訴人主張の預金払戻請求拒否の事実自体は、預金契約にもとづく金銭債務の不履行に過ぎないものであり、被控訴人が詐欺その他公序良俗に違反する手段を用いて預金払戻請求を拒否するなど前記特段の事情を認め得る的確な証拠は存しないのであるから、控訴人の本請求は、その主張の預金債権の存否について判断を加えるまでもなく理由がない。

三  以上の次第で、被控訴人に対し債務不履行または不法行為にもとづく損害の賠償として五〇万円およびこれに対する昭和三九年三月一九日以降支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却

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